夫婦で初の地方暮らし。覚悟を決めずに来たら、どんな生活が待っていた?

今回は、初めての地方暮らしをされている沼澤さんご夫妻にお話を伺いました。


ー紀宝町を知ったきっかけを教えてください。

幸子さん) 2022年11月に、紀宝町で開催された医療のシンポジウムに登壇するために初めて訪れました。その時も良いところだなとは思いましたが、当時住んでいた関東から遠いという印象の方が強かったです。

ーそれからどのような流れで紀宝町へ来ることになったのでしょうか?

信明さん) 自分はこれまで東京圏から出たことがなく、移住なんて想像すらしていませんでした。ですが2023年の年明けにコロナにかかってしまい、のちに妻もかかりました。彼女の方が症状は重く、「シンポジウムの時の先生が側にいてくれたら」と苦しそうに唸っている姿を見て、思わず「移住しようか」と口に出してしまって…。その時は言っただけのつもりでしたが、それからあれよあれよと移住に向けて進んでいきました。

幸子さん) コロナにかかったあと、紀宝町が看護師の地域おこし協力隊を募集することを知りました。予想もしていなかったことだったので、とても悩みましたが、こういう機会は二度とないかもと思い応募を決意しました。

ーこちらへ来るにあたり、何か支援制度は使いましたか?

信明さん) 移住支援金を使いました。東京23区に在住または通勤する人が、東京圏外に移住する際に支給される交付金で、調べたら条件が複数ありましたが、当てはまっていたので申請しました。役場の企画調整課の方や、移住支援員の方には大変お世話になりました。

ー幸子さんは地域おこし協力隊として活動を始められましたが、信明さんのお仕事はどうされたのですか?

信明さん) 在宅勤務に切り替えました。初めは妻と一緒に紀宝町に来ましたが、そのあと自分だけ東京都内の実家に戻り、約半年は実家から職場に通っていました。その後職場に交渉し、在宅勤務にシフトして紀宝町に戻りました。同じ部署で在宅勤務をしている人もいますし、希望を叶えてくれる職場でありがたかったです。

ー住まいはどうやって探しましたか?

幸子さん) 今の家にもともと住んでいた方の退去のタイミングと重なり、入れ替わる形で入居しました。ありがたいことに冷蔵庫などの家電は置いていってくれて、洗濯機を買うだけで済みました。車も別の人から譲ってもらい、あまりモノを買わずに新生活を始められました。

ー紀宝町に来て驚いたことはありますか?

幸子さん) 過去に田舎で暮らした経験があり、人との距離がすごく近いだろうと思っていましたがそんなことはなく、町の方々はほどよい距離感で接してくれます。分からないことは丁寧に教えてくれますし、出張で地区の行事に出席できない時も「全然大丈夫よ〜」と言ってくれるんです。嘘みたいに聞こえますが、なんでこの地域は優しい人しかいないんだろうと思いました。来て1年経った今でも思います。だからこっちで知らない人に声をかけるとか、行ったことのない場所に行くことが苦にならないです。

信明さん) 選択肢が少ないことでしょうか。例えばチェーン店のAはあるけど、Bはないというような。隣町の新宮市にはある程度お店があるのでよく行きますね。よくGoogleマップでお店を探すんですが、紀伊半島に目当てのお店がないこともあります。

ー都会と地方で違うと感じるところはありますか?

信明さん) 用事で2ヶ月に1回は東京の実家に帰るんですが、こっちに戻ると空気が綺麗だなと感じます。

幸子さん) 都会は夏だろうが冬だろうが景色は変わりませんが、こちらは季節が少し進むだけで景色が変わります。今までは癒しを求めて旅行先を決めていましたが、今すでに癒されているので、出張が旅行みたいな感覚になっています(笑)。

ー都会から地方に来られて、改めて便利だなと思うものはありますか?

信明さん) 宅配便ですね。フリマのサービスで出品する際も使いますし、何より自宅まで運んでくれるのは本当にありがたいです。

幸子さん) 配達員の方も優しいんです。いつも「あそこに入れましたよ」とメモを残してくれますし、届けてくれたことにもわざわざ電話をくれるんです。なんて丁寧なんだろうと思います。

ー話は変わって、幸子さんの運営している法人のことと、紀宝町での活動内容を教えてください。

幸子さん) がん患者さんとそのご家族へのサポート、看護師の活動支援をする「一般社団法人がんサポートナース」を運営しています。協力隊の活動としては、主にがんに関する相談窓口を開設しています。また一緒に活動しているメンバーと、がん患者さんやそのご家族、子育て中の方などが気軽にお話しができる「kokoroカフェ」も始めました。もともと病院勤務の看護師をしていましたが、病院という組織で働くより、1人の看護師として何かできることはないかと模索する中で、患者さんや医療職も自分が大切にしているものを大切にできる世の中にしたいという想いが芽生え、法人を立ち上げました。医療職でも理想の生き方を実現できると、患者さんにより良いケアを提供できると考えています。そんな「医療の隙間を満たす人材」を増やしたくて、看護師向けの養成講座も開講しています。

ー紀宝町に来てから、以前と比べて法人を含めた活動内容に変化はありましたか?

幸子さん) やりたいと思っていた子育て支援にも関われるようになりました。もともと子どもが大好きで、保育士になりたかったんですが、ピアノが弾けないので諦めていました(笑)。町の子育て支援センターに通う中で、中学校の先生と知り合って授業を依頼されたり、悩みを抱えたお母さんに出会って新しいつながりもできています。例えば子育て支援で関わりのある方の親御さんが、がんになってしまいサポートが必要になるなど、自分が携わる分野は全て繋がっていると感じます。ですが今は「私=がん患者さんのサポートをする人」のようなイメージが強いと思うので、今後は子育て支援も含め、さらに広い範囲でお役に立てるように頑張りたいと思います。まだ紀宝町に来て1年ですが、移住前より明らかに看護師としての活動の幅が広がっているなと感じています。

ー私にも活動の幅が広がる感覚があります!また話は変わりますが、仕事以外の時間は何をされていますか?

幸子さん) 映画を見たり、本を読んでいます。本は年間200冊読んでいます。運営している法人の講座の受講生と面談をしたり、研修に参加することもあります。あとは夫とドライブに出かけることもあります。

信明さん) 仕事以外で何をするか、今まさに模索中なんです。東京にいた頃は通勤時間が往復約3時間あったので、途中で寄り道をしたりしていました。今は9時から18時まで在宅勤務で、終わってから外に出ても、道が暗いのであまり出かける気にもならず…。空いた時間で何かをしようと、最近何十年かぶりにゲーム機を買いました。あとはフリマのサービスで不用品を売ったりしています。もともと中古品が好きではなかったんですが、どうしたら売れるのかを考えるのが面白いんです。環境が変わったことで新しい自分の側面を知りました。

ー最後に、移住を考えている方へメッセージをお願いします!

幸子さん) 期間限定でもいいので、どこかに行ってみる。外に出る。そうするとやりたいことが見つかるような気がしています。特に医療関係者に伝えたいです。私は実際に地方に来て、いいタイミングで来れて良かったなと思いました。私のように地域おこし協力隊の制度を利用してもいいんじゃないでしょうか。地方に行って、やっぱり都会がいいと思って戻ったとしても、これまでになかった視点が加わっているかもしれませんよ。

信明さん) 夫婦で移住を検討している方、また私のように積極的に移住を考えていなかった方へ伝えたいのですが、あまり深刻に考えず、単なる引越しと考えて、ネガティブに考えすぎないことも必要だと思います。

ご夫婦で運営する「一般社団法人がんサポートナース」ホームページ

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